黒体輻射と温室効果[の1]
エネルギー変換・講義資料
野々瀬真司
1.黒体輻射とプランクの熱輻射公式
温室効果を理解する鍵はプランクの熱輻射公式である。これはあらゆる物体はその温度に応じて光り(輻射)と平衡状態を実現するという物理法則である。それは絶対温度Tの物体と平衡状態にある輻射(真空の中に満ちている光)のエネルギー密度(単位波長幅、単位体積当たり)を波長λと絶対温度Tの関数で与える。度Tの物体と放射平衡にある電磁場(光)の単位振動数幅、単位空間体積当たりの放射エネルギー密度I(n,T)は
となる。ここで c=光速=3.0×108m/s、 h=プランク定数=6.63×10−34J・s、 k=ボルツマン定数=1.38066×10−23J/K である。また、単位波長幅、単位空間体積当たりの放射エネルギー密度u(l,T)は
2.シュテファン・ボルツマンの法則
輻射で満たされた空洞の壁に,その空洞の大きさにくらべて非常に小さい孔をあける。この孔を外部から見たとき漏れ出てくる輻射は絶対温度Tの物質と平衡関係にある輻射である。このように入射する総てのエネルギーを吸収するような物体を完全黒体という。物体の単位面積が単位時間に放出するエネルギー流量S(W/m2)になるがこれは絶対温度Tの4乗に比例する。
シュテファン・ボルツマンの法則と言われる。比例定数σをシュテファン・ボルツマン定数という。このことから、一定の輻射を受けている物体はどんどん暖まって温度が上昇していくが、それに伴って放射するエネルギーも増えていく。やがて入射するエネルギーと同じだけのエネルギーを放射する温度になったときつり合う。つまり受け取る放射のエネルギーに応じてつり合う温度が決まってくる。
釣り合い状態では単位時間に受け取るエネルギーと放射するエネルギーは等しくなっている。
3.ウィーンの変位則
放射のエネルギー密度が最大になる波長λmaxと絶対温度Tの間の関係を調べてみると、λmaxは、Tに反比例し
という式で表わされる。ウィーンの変位則と言われる。つまり物体は温度が上がるほどより波長の短い光を出して輝くようになる。また低い温度の物体もそれなりの波長の光を放射している。太陽(T=5800K)が出す光はλmax=0.5μmの可視光であり、地球(平均温度T=288K)が放射する光はλmax=10μmの赤外線である。つまり地球表面は可視光で暖められ、赤外線を放出して冷える。
4.地球大気は可視光に対してほとんど透明だが赤外線は良く吸収する
酸素や窒素の吸収波長は紫外線やX線の領域にあり、可視光や赤外線に対してほとんど透明である。しかし大気中にごく僅か含まれる水H2O(0.3%)と二酸化炭素CO2(0.03%)は、その分子振動の共鳴振動数が赤外線の振動数領域にある。そのため可視光に対しては透明であるが、赤外線を良く吸収する。吸収された赤外線エネルギーは分子振動を経て熱エネルギーとなる。そして酸素や窒素と衝突することにより他の分子に広がっていき、結局大気全体を加熱することになる。メタンやフロンの様な構造の分子も赤外領域に吸収波長を持ち温室効果ガスになる。
いずれにしても大気中にごく微量しか存在しないこれらのガスが地球放射の大部分を吸収してしまう。そのため大気全体が暖められて、大気はその温度に応じた光を放射し始める。その波長はウィーンの変位則により赤外の領域になる。そのとき大気は宇宙空間の方向と同時に地球表面の方向へも熱線を放射する。そのため地球は再び暖められて温度が上がる。シュテファン・ボルツマンの法則により、その上がった分だけ余分な放射をしないと温度がつり合わない。その余分な放射が再び大気に吸収され大気を暖める。大気はさらに赤外線を上下に放射する。以下この繰り返しで地球と大気が互いに暖めあう。これが温室効果である。温室効果と呼ばれる理由は温室のガラスが大気と同じ働きをして、これと同じメカニズムで温室内の温度を上げるからである。温室効果ガスが無くて大気が赤外線に対して透明な場合に、地球は−40℃で輻射平衡になると言われている。
二酸化炭素と水蒸気の温室効果ガスのために現在の地球は+15℃で輻射平衡になっている。上記のフィードバック増幅効果の為に温室効果ガスのごく微量の存在で平均気温が−40℃から+15℃に増大したのである。今日フロンやメタン、そして二酸化炭素の大気中濃度の増大に重大な関心が持たれている理由である。
5.地球のエネルギー収支
地球に入射したエネルギーは結局、最後にはすべて宇宙空間に逃げていく。地球大気圏上層に届く太陽光の内の50%が地表に届く。それが地表を暖める。暖まった地球は赤外線を放射する。そのうち6%が大気を透過してそのまま宇宙空間へ逃げ去る。残りの44%分と、太陽光が直接大気を暖める部分 (20%)の合計64%が大気を加熱する。暖まった大気もまた、その温度に応じた赤外線を放射する。それは地表面に向かうものと宇宙に逃げるものになるが、地球に向かう成分は、地球を再び暖める。そしてさらに暖められた地球は赤外線を放射し、それは大気に吸収される。以下同様のフィードバック機構が等比級数的に働く。大気の厚さを何層にも分割して考えると、各層において同様な平衡関係が成り立っている。温室効果ガス濃度が増えれば、より下層の部分で赤外線が吸収しつくされてしまう。そうなると大気から地表面に帰る割合が増大するであろう。そのために温室効果ガスの僅かな変動は輻射の地表への帰還率を大きく変動させる。
参考書
1. キッテル 熱物理学 第2版 山下次郎、 福地充 訳 丸善株式会社 第4章.
2. 量子力学 朝永振一郎 著 みすず書房 第1章.
3. 物理学とは何だろうか(上)(下) 朝永振一郎 著 岩波新書.
4. 振動分光学(日本分光学会測定法シリーズ16)中川一朗 著 学会出版センター 第2,3章.
[の2]http://en.wikipedia.org/wiki/Planck%27s_law_of_black_body_radiation#_ref-0 を参照
The wavelength is related to the frequency by
The law is sometimes written in terms of the spectral energy density[4]
which has units of energy per unit volume per unit frequency
(joule per cubic meter per hertz). Integrated over frequency, this expression
yields the total energy density. The radiation field of a black body may be
thought of as a photon gas, in which case this energy density would be one of
the thermodynamic parameters of that gas.
The spectral energy density can also be expressed as a
function of wavelength:
as shown in the derivation below.
Since the radiation is the same in all directions, and
propagates at the speed of light (c), the spectral intensity
(energy/time/area/solid angle/frequency) is
which yields
[の3]/黒体輻射/プランク分布関数のグラフ.doc