環境理学科専修実験・物理化学実験
物質の密度と粘度
担当:野々瀬真司
(理科館333号室、TEL045-787-2218、nonose@yokohama-cu.ac.jp)
目的
溶液の密度および粘度は溶質の濃度によって異なるが、特に混合液体の密度および粘度は組成比とともに著しく変化する。またその効果は液体中の分子状態に関係している。本実験では、
オストワルド型密度計およびオストワルド毛管粘度計を用いて、さまざまな組成比にある水-エタノール溶液の密度と粘度を測定し、混合液体中での分子の状態を考察する。
【1】密度
密度d(g/cm3)は単位体積あたりの物質の質量をいう。
d=m/V (mは質量(g)、Vは体積(cm3))
25℃における水-エタノール混合物の密度を測定して、エタノールの重量分率と密度との関係を図示する。以下のような重量分率(%)の水-エタノール混合物をそれぞれ50gづつ調製して、測定試料として用いること。(粘度測定の試料と共用)
表1. 試料として用いる水-エタノール混合物の重量分率(%)
純水 |
100 |
90 |
80 |
70 |
60 |
50 |
40 |
30 |
20 |
10 |
0 |
エタノール |
0 |
10 |
20 |
30 |
40 |
50 |
60 |
70 |
80 |
90 |
100 |
実験方法
必要な器具と薬品:密度計、恒温槽、化学天秤、60cm3共栓付きフラスコ10個、アスピレータ、キムワイプ、針金、純水、エタノール。
水は室温付近で温度が1℃上昇するごとに密度が約0.03%づつ減少する。したがって精度良く密度を測定するには試料の温度を正確に一定に保たなければならない。そのために試料の入っている密度計(図1.オストワルド型密度計)を恒温槽に浸して、試料の温度を常に25℃に保つ必要がある。
(1) 恒温槽を25℃に調節する。(気温が25℃以上の時は気温+2℃に設定する。)
(2) 試料溶液の調製:天秤を用い、溶液中のエタノールの割合(重量%)が10、20、30、40、50、60、70、80、90%となるように試料を調整する。
(3) 密度計に針金を取り付け、空の重量を測定する。そのときはいったん密度計を恒温槽に浸し、取り出してからガーゼで水を拭い、数分放置してから秤量する。これを密度計の外側のガラス表面の標準的な乾燥状態とする。
密度計に試料液として純水を入れる。密度計の片方の口に細いゴム管をつけ、もう一方の口を純水につけて、純水を静かに吸い込み密度計にいっぱいに満たす。密度計を恒温槽に浸して、数分間放置した後に恒温槽から取り出す。水面が密度計の印線のところに来るように片方の口にキムワイプをあてて純水を吸い出す。キムワイプで密度計外面についている水をぬぐって質量を測定する。少なくとも3回秤量して平均値を算出すること。密度計が倒れないようにビーカーに入れ、ビーカーとともに秤量する。以後秤量するときは同じビーカーを用いる。
(4) 密度計を恒温槽から取り出し、(3)と同様の手順に従って秤量する。
(5) 純水を入れる前後の重量差と25℃での水の密度、0.99707g/cm3を用いて密度計の容積を求める。
(6) 試料液の一部を抜くには一方の先端にキムワイプをあてて傾け、液をキムワイプに吸収させて除く。
(7) 測定が終わったら密度計を乾燥させる。密度計にエタノールを入れた後、アスピレータで空気を吸引する。これを数度繰り返す。水は蒸発しにくいので入念に洗うこと。
(8) 純水の場合と同様に、純エタノールについて目盛の和と重量の測定をおこなう。また同様に、水-エタノール混合液について目盛の和と重量の測定をおこなう。水は蒸発しにくいので、水の組成比が小さい順に測定すること。
実 験 上 の 諸 注
意
(1)
恒温槽の温度が一定になるまでには少し時間がかかる。実験を始める前にあらかじめ(昼休み中などに)、ヒーター等の電源を入れておくとよい。また、実験が終了して帰る際には、電球等の電源のコンセントを必ず、絶対に抜いておくこと。
(2)
密度計は高価である。慎重に取り扱って欲しい。以下破損しやすい例と若干の注意を述べる。
バッキンと壊したものには罰金を課す場合がある。
(3)
密度計はU字管である。変な方向に力を加えると簡単に折れるので注意する。特に密度計の両枝を同時に握ると、破損することが多い。(b)ゴム管を差し込むときは、差し込む方の枝の一方だけを持ち、ゴム管を回転させながら、ねじるように入れる。決して直線的に押し込んではならない。密度計の破損の原因の60〜70%は、ゴム管を差し込む枝と違って、遠い方を持って、まっすぐ入れようとする場合である。
(4)
密度計を持ちながら、密度計に関連のない実験操作をしないこと、破損しない場所、特にものに立てかけて置くと倒れて破損するなど、置き場所に配慮して、高価なガラス器具の取扱いは、同時進行しないで、ひと操作すんでから次の操作に移る。
(5)
密度計を乾燥させるときは、吸引ろ過による。密度計の口から吸引し、もう一方の口にはキムワイプの5mm角くらいの小片を吸い付ける。これは、密度計が濡れているとき、空気流中の塵埃を吸着し、洗った以上に密度計を汚すからである。「密度計は実験室の空気浄化器ではない」。ピペットを乾燥するときも同様である。
(6)
速く乾燥させたいと、密度計を高温乾燥器に入れたり、ヘアードライヤーで加熱したりしてはならない。「人間の体温以上に温めない」と心得よ!
(7)
密度計は、天秤の皿の上にある鈎に、針金で吊るして重量を測る。また針金で吊るして恒温層に漬けたりする。密度計の液量(毛細管目盛りの水位)を望みどおりにするには、キムワイプを管の口に当てがい恒温槽中で密度計を傾けて、少量の液を吸わせる。
課題
水-エタノール混合物中のエタノールの重量分率(%)を横軸、密度(g/cm3)と縦軸として、重量分率と密度との関係を図示する。エタノールの重量分率と密度の関係について考察せよ。水、エタノールの部分モル体積を組成の密度の関数として求めよ。※部分モル体積の求め方については参考文献[2]を参照すること。
【2】粘度
原理
流体の速度が流れの各点で異なっているときには、速度をならして一様にするように流体内に応力が生じる。この性質のことを粘性という。これは滑りの力に抗して運動する流体が示す一種の摩擦抵抗であるとみなすことができる。この性質を理解するために、静止した平面上を流体が流れている状況を考えよう。このとき静止した平面に接している流体の層は動かないが、その層からすぐ上の層よりだんだん速い速度をもって流れる。この時、それぞれの層が異なる速度で流れるために層と層との間には摩擦力がはたらく。Newtonはこのような互いに接する任意の2層間の相対運動に抵抗する摩擦力Fは、それら2層間の界面の面積Sとそれらの間の速度勾配dv/drに比例するとした。
F=ηS(dv/dr) (1)
これが粘性流に対するNewtonの法則と呼ばれるものである。この式ノ現われる比例係数ηは流体物質の粘性の大きさ(粘度)を表わす量であって、粘性係数(coefficient
of viscosity)と呼ばれる。
物質の粘度を測定するにはいくつかの方法があるが、本実験では毛管粘度計を用いて粘度を測定する。 図2はOstwald粘度計と呼ばれる毛管粘度計である。この粘度計では、粘度を測定しようとする液体を下球cより上まで押し上げ、自重によって流下する液の液面が、刻線L1とL2を通過する間の時間tを測定する。
このとき、液の粘度ηと流下時間tとのあいだの関係は、
R 毛管の半径
L 毛管の長さ
h 液柱の平均の長さ
Q L1- L2 間の容積
ρ
液の密度
g 重力の定数
m 定数(毛管の両端の形による)
として次式で表わすことができる。
η = (πghR4/8LQ)ρt − (mQ/8πL)・(ρ/t) (2)
この式の第2項は運動エネルギ−の補正項であって、毛細管の流速が小さいときは第1項に比べて省略できる。従って、粘度は次式のように簡単な式で表わされる。
η=(πghR4/8LQ)ρt (3)
球Cに常に一定量の液を入れることにして、粘度計を常に鉛直に保つことにすれば、(3)式の右辺のうち、ρ、t以外は粘度計によって決まる定数になるから、
η=Aρt (4)
従って、ηの既知の液体を標準に用いればAを求めることができ、Aのわかった粘度計を用いることによって、ηが未知の液体の粘度を求めることができる。
実際の溶液では溶液の粘度の絶対値が要求されることがほとんどなく、通常は溶媒の粘度を基準にした相対値を知れば十分である。すなわち、溶媒の粘度係数をη0、溶液の粘度係数をηとしたときに、
r=η/η0 (5)
で定義される相対粘度(relative viscosity)を求めればよい。よって、(4)式から次の関係を得る。
ηr=(ρt/ρ0t0) (6)
よって、溶媒の密度ρ0と落下時間t0、溶液の密度ρと落下時間tを測定すれば、溶液の相対粘度を求めることができる。
実験方法
粘度計は洗剤に入れて数時間放置した後、細い管の方を水流ポンプにつなぎ、水道水を数回通して洗浄する。蒸留水で同様に洗浄した後、エタノールで水を洗い流してから、空気を通して完全に乾燥させる。乾燥器で熱乾燥させてはいけない。試料および溶媒採取に用いるピペットも同様の方法で洗浄する。
粘度計は恒温槽中に毛管が鉛直になるように保持し、傾かないように注意する。なお、測定は粘度計及び試料溶液が十分な温度平衡に達してから開始すべきである。室温と恒温槽との温度差が甚だしく異なり、測容の誤差が非常に大きくなる可能性があるときには、試料及び溶媒の容器をあらかじめ恒温槽に浸して所定の温度にしておく。試料溶液はピペットで正確に計りとり太いBのほうから粘度計に入れる。粘度計の上部にはAにゴム管をつけ口で軽く吸い込んでいけば、管中の空気の圧力により液は毛細管を通って上球部へ押し上げられる。Cの上の刻線L1の少し上に液面が上がったら口を放して自然に流下させる。液面がL1とL2を通過する時間(流下時間)の測定にはストップウオッチ(ストップウオッチ機能を持つ腕時計でも可)を用いて、1/10秒まで読み取り、3回の測定の平均をとる。
実 験 上 の 諸 注 意
(1)
恒温槽の温度が一定になるまでには少し時間がかかる。実験を始める前にあらかじめ(昼休み中などに)、ヒーター等の電源を入れておくとよい。また、実験が終了して帰る際には、ヒーター等の電源のコンセントを必ず、絶対に抜いておくこと。万一、ヒーターが空炊き状態になると恒温槽が破損し、火事になる恐れがある。
(2)
粘度計は高価であるから、破損しないように細心の注意をして取り扱う。特に次の諸点に留意すること。バッキンと壊したものには罰金を課す場合がある。(a)粘度計はU字管になっている。太い管と細い管を同時に握らないこと、普通は太い管の方を持つこと。(b)粘度計にゴム管をつなぐとき、細い方のガラス管にゴム管を入れる場合は、細いガラス管部分を指で持って、太い管には、太い管部分を指で持って、(ゴム管を 回転しながら)ねじり込むように入れる。決して逆の持ち方をしない。(c)粘度計を持ちながら、粘度計に関連のない実験操作をしないこと。破損しない場所におくこと。特にものに立てかけて置くと倒れて破損することがある。
(3)
粘度計には、10ml用と5ml用があるから、実際に水をピペットで入れてどちらかを確認実験をする。ピペットで純水を5mlないし10mlに入れたとき、液の高さが溶液溜の膨れた部分に入りきること、また試料を押し上げたとき、溶液のもう一端が溶液溜めの比較的下部にくるような液量がこの粘度計の規格である。原理の項で上述した様に、粘度を測定する溶液は常にピペットで正確に同量を測り入れなければならない。
(4)
粘度計には20℃,120sec計と規格が書いてあるが、溶液粘度は恒温槽温度に敏感であり、恒温槽温度が25℃の場合はもっと落下速度が速いので、120secを気にすることはない。たとえ20℃で水の粘度を測定しても120secきっちりにはならない。「20℃,120sec計」の規格は公称である。
(5)
粘度計を乾燥させるときは、吸引ろ過による。粘度計の毛細管部分が早く乾燥する必要から、粘度計の太い管枝から吸引し、細い方にはキムワイプの5mm角くらいの小片を吸い付ける。これは、粘度計が濡れているとき、空気流中の塵埃を吸着し、洗った以上に粘度計を汚すからである。「粘度計は実験室の空気浄化器ではない」。ピペットを乾燥するときも同様である。
(6)
液の落下中は、恒温槽のかきまぜ機を止める。
課題
純水とエタノールの混合液体の一定温度における組成と粘度の関係を求めよ。この場合に粘度は組成によって大きく変化し、中間の組成で極大値を示すはずである。この場合、密度の変化も大きいので(6)式を用いる。
(1)
試料溶液の調製:溶液中のエタノールの割合(重量%)が10、20、30、40、50、60、70、80、90%となるように試料を調整する。(密度測定の試料と共用)
(2)
純エタノールの流下時間の測定:エタノールのみで流下時間を測定する。この場合、試料を測定するときと同じ回数(少なくとも3回)だけ測定することに注意する。恒温槽の温度は25℃とする。(気温が25℃以上の時は気温+2℃に設定する。)
(3)
試料の流下時間の測定:(2)で用いた粘度計をアスピレータで完全に乾燥させた後、(1)で調製した水とエタノールの混合液体の流下時間を測定する。水は蒸発しにくいので、水の組成比が小さい順に測定すること。
(4)
純水のみで流下時間を測定する。
(5)
試料の組成比と粘度に関してプロットする。このグラフより、どのようなことが分かるかを考えられる。さらに、混合液体中での水分子、エタノール分子の状態・構造について考察する。
出席
毎回、学生実験を始める前に出席をとるので、12:50までに物理化学実験室に集合すること。
レポート
1.
実験の目的
2.
実験の原理
3.
実験方法の概略 ・・・ 以上を簡単に記すこと
4.
データの解析方法、課題を含めた実験に関する考察を詳しく記すこと。
レポートの提出は、本実験終了後、次の週の金曜日の17:40までに教官(野々瀬真司)の居室(理科館333号室)前にあるポストに提出すること。学籍番号と名前を忘れないように。
参考文献
[2] 物理化学実験法、千原秀昭編、東京化学同人、第15、19章.(図書館No.432.7 4N4).
[3] 化学便覧、基礎編、日本化学会編、II-12、II-46.
[4] 溶液化学、大滝仁志著、裳華房.
[5] 水の構造と物性、カウズマン、アイゼンバーグ著、みすず書房.
【参考】 水 – この風変わりな液体
1気圧のもとで氷は0℃で融解して水となり100℃で沸騰して水蒸気となる。水の沸点と融点は、それと類似の化合物の融点や沸点に較べて著しく高い。融解や蒸発の際に吸収する熱量も類似の化合物に比べて大きい。比熱容量も非常に大きい。
水は電解質を溶かしやすい溶媒である。それは誘電率が大きいことに起因する。
水の表面張力は液体金属を除けば通常の液体に比べて非常に大きい。
水の密度の異常性。0℃で氷が融解すると10%も密度が上昇し、3.98℃で密度が最大となる。100℃の沸点においても水の密度は氷よりも5%ほど大きい。
水の持つこのような異常性は水分子間に強い相互作用(水素結合)が存在し、分子の充填状態が通常の液体とはかなり異なっていると考えなければ説明がつかない。こういった相互作用や充填状態の特異性は水自身の構造に由来している。
氷が融解して水となっても、氷の中の水素結合の65〜80%程度がそのまま残っている。水は氷に似た水素結合を持つ会合性の液体である。
水分子1個あたり約4.4個の水分子をその最近傍に持っている。(氷の場合は4個)
水は氷に似た隙間の多い3次元的な網目構造を持っており、その空孔のいくつかに水素結合をしていない水分子が取り込まれている。