講義ノート・熱機関
エネルギー変換講義資料
野々瀬真司
1.産業革命
産業革命(Industrial Revolution)とは、18世紀から19世紀にかけて主に西ヨーロッパで起こった工場制機械工業の導入による産業の変革と、それに伴う社会構造の変革のことである。
第一次産業革命は、石炭、蒸気機関を動力源とする軽工業中心の発展。第二次産業革命は、石油、モーターを動力源とする重工業中心の発展。エネルギー技術が進む。
「燃料革命」と製鉄技術の改良 イギリスでは、燃料としていた木炭の消費が激しくなったことで森林破壊が進んでいた。こうした中、木炭から石炭へと燃料が切り替えられた。これを「燃料革命」とも称する。また、石炭を加工して作られるコークスを用いたコークス製鉄法が開発されたことで、鉄製機械の生産が容易になった。
動力源の開発 1785年、ワットが蒸気機関のエネルギーをピストン運動から円運動へ転換させることに成功、この蒸気機関の改良によって、様々な機械に蒸気機関が応用されるようになった。1807年の蒸気船の発明、1804年の蒸気機関車の発明によって人間・貨物の移動がより容易になった。
社会への影響 大量生産により、物価が下がった反面、劣悪な環境での労働といった労働問題、都市のスラム化による衛生面の悪化などの社会問題の発生が生じた。工業化による都市への労働力の集積で、各地で都市化が進行し、住環境の悪化、過密、治安の悪化などの新しい社会課題を生み出した。産業革命により極度に発展した資本主義によって、植民地は単なる原料供給地としてではなく、市場と余剰資本の投下先として再認識されるようになった。こうして帝国主義が生まれ、世界分割をめぐる二度の世界大戦を引き起こす原因となった。
熱機関の特徴と主な用途 |
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構造 |
名称 |
効率 |
動作原理 |
主な用途 |
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連続 |
中 |
外部で発生させた高温の蒸気を羽根車(タービン)に吹きつける |
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不良 |
外部で発生させた高温の蒸気をシリンダーに注入しピストンを往復運動させる |
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最良 |
二つのシリンダー内の作動気体を外部の熱源で交互に加熱・冷却することにより差動的にピストンを往復運動させる |
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間欠 |
火花点火機関 |
中 |
燃料と空気の混合気をシリンダ内で圧縮したあと燃焼・膨張させる |
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高速ディーゼル機関 |
良 |
空気を圧縮したシリンダ内に燃料を噴射して燃焼・膨張させる |
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低速ディーゼル機関 |
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連続 |
中 |
圧縮機で空気を圧縮したところに燃料を噴射して燃焼させた高温気体を、タービン(羽根車)に吹き付けて直接回転運動を得る |
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ガスタービンの作動流体をタービン後方から噴射して推力を得る |
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ガスタービンの作動流体をタービン後方から噴射する推力に加え、タービンの回転軸で空気圧縮機前方に配置した推進ファンを回転駆動することで主な推力を得る |
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ガスタービンの作動流体をタービン後方から噴射する推力に加え、タービンの回転軸で空気圧縮機前方に配置したプロペラを回転駆動することで主な推力を得る |
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中 |
内蔵された酸化剤と燃料とで高圧ガスを発生させ外部へ噴射することで推力を得る |
2.熱機関
熱機関(ねつきかん、heat engine)は、燃料の化学的エネルギーを燃焼という過程を通して機械的エネルギーに変換する原動機。
内燃機関 燃焼ガスで直接ピストンを押す・タービンを回転させるなどの仕事をするものである。熱効率が良い反面、燃料の性質に制約がある。ピストンエンジン(レシプロエンジン)やガスタービンエンジン等がある。燃焼形態に注目した場合、ピストンエンジンは「間欠燃焼」、ガスタービンエンジンは「連続燃焼」という違いがある。ピストンエンジンの場合、シリンダー(気筒)の内部で燃料を燃焼させ、燃焼により生じる圧力がピストンを押す力を利用する。 内燃機関では、熱効率においてカルノーサイクルを越えるものは、理論上作り出せない。
外燃機関 熱交換器により燃焼ガスの熱を作動ガス(作動気体)に与え、この作動ガスがピストンを押す・タービンを回転させるなどの仕事をするものである。熱効率が低いが、燃料は液体(重油)・固体(石炭)・原子力・太陽熱・廃熱でもよく自由度がある。代表的なものとして、蒸気機関・蒸気タービンやスターリングエンジンがある。また原子炉を使った原子力機関も外燃機関の一種である。外燃機関において、熱エネルギーから運動エネルギーに変換する過程で作用するものを動作気体、動作ガス、作動流体という。たとえば蒸気機関では水を沸かしてその蒸気でタービンを回し、機械的エネルギー(動力)を得るから、蒸気が蒸気機関における動作気体である。
内燃機関と比較した場合、熱源が外部にあるため、燃料の形態(ガス、液体、固体)による選択肢が広く、最適な条件で燃焼させる事ができる為、大気汚染物質の排出を押さえやすい。また、化石燃料(石油、天然ガスなど)だけでなく原子力、地熱、太陽光等多種多様の熱源を利用する事が可能である。また、内燃機関に比べ作動音が比較的静かである。一方、小型化、可搬性に劣り、出力・重量比が大きく重量がかさむ割に力が小さい為、小型、高出力を求められる輸送機械には内燃機関に比べ不利である。
蒸気機関 (じょうききかん, steam engine) は、蒸気の圧力を機械的エネルギーに変換する原動機の一種。外燃機関の一種であり、ボイラなど機関外部で発生させた蒸気を用いる。蒸気機関には、蒸気をシリンダに導き、ピストンを動かして往復運動をさせるレシプロ機関型のものと、蒸気で羽根車をまわすタービン型のものとが存在する。
ヘロンの蒸気機関 古代アレクサンドリアのヘロンが考案した。これが人類史上に蒸気機関が登場した最初のものであるとされる。[の2]
ニューコメンの蒸気機関 イギリスのトーマス・ニューコメンが1712年に製作した。冷水で冷やすときシリンダも冷えるので燃料効率は低く、掘り出した石炭のうち実に1/3程度がこの揚水ポンプのために消費されていたという。[の3]
ワットの蒸気機関 スコットランドのジェームズ・ワットが1769年に開発した。復水器で蒸気を冷やす事でシリンダーが高温に保たれることとなり効率が増した。ワットの蒸気機関は、産業革命・工業化社会の原動力になった。[の4]
レシプロ式蒸気機関の落日と蒸気タービンへの移行 20世紀初頭から、電気動力・内燃機関動力が発達をしはじめた。蒸気機関は、ボイラー,復水器などの付帯設備が大きいこと、(それらの新動力と比べると)エネルギー効率が悪く対重量比出力が低く、起動・停止に手間がかかる。特に自動車については早期に内燃機関に移行した。機関車は、21世紀では世界的に見てもごくわずかなところに残るにすぎなくなっていた。なお、大型のシステムについては、レシプロ蒸気機関から蒸気タービンへの移行も発生した。発電用としては、大規模な発電プラントではおもに蒸気タービンが用いられ、規模の小さいプラントや移動用施設ではディーゼルエンジンやガスタービンが使用されている。
ガソリンエンジン(Gasoline/Petrol engine)は、ガソリン機関ともいい、燃料(ガソリン)と空気の混合気をシリンダ中に吸入し、この混合気をピストンで圧縮したあと点火、燃焼・膨張させて(予混合燃焼)ピストンを往復運動させる内燃機関。通常はクランク機構で回転軸に出力する。燃焼は混合気の体積が最小になる付近の短時間に一気に行われるため、容積がほぼ一定で燃焼する。このため定積燃焼サイクル機関ともいう。ガソリンエンジンは排気量あたりの出力が大きく、また高速回転による運転も容易で、振動や騒音が少なく静かであることから、乗用車、自動二輪車などに広く利用される。
(4ストロークエンジン)
(1)吸入 → (2)圧縮 → (3)燃焼・膨張 → (4)排気
5.ディーゼルエンジン
ドイツのルドルフ・ディーゼルが発明した内燃機関。[の6]圧縮して高温になった空気にディーゼル燃料(軽油や重油)を吹き込んだ時に起きる、自己着火をもとにした爆発でピストンを押し出す。主な用途は大型自動車(トラック・バス)や、鉄道車両(ディーゼル機関車・気動車)、建設機械、農業機械、船舶、内燃力発電などのエンジンに利用される。
ガソリンエンジンとの比較
メリット
空気過剰率が大きいため熱効率が高い。要するに燃費が良い。
部分負荷時の燃料消費率が低く、同じ仕事に対する二酸化炭素の排出量が少ない。
大型化に適している。
デメリット
機関自体に高い強度と剛性が必要で、質量が大きくなりやすい。
不完全燃焼による黒煙や粒状物質が発生しやすい。
タービンとは流体の圧力や運動エネルギーを、回転運動のエネルギーへ変え、機械的エネルギーへ変換する流体機械(原動機)である。作動流体の多くは気体・液体。
動作原理 高圧の水蒸気を減圧すると圧力エネルギーが速度エネルギーに変換される。この速度エネルギーを動力に変換する。熱力学第二法則により熱サイクルの最高温度と最低温度との差が大きいほど熱効率が高い。
特徴
・ 長所:燃料の選択肢が広い。高圧の水蒸気を生成できればその方法は何でもよく、原子力やごみ焼却場の廃熱をも利用できる。燃料を燃焼させる場合、安定した燃焼となるので排気ガスを比較的きれいにしやすい(燃焼のコントロールがしやすい)。運転音が静か。振動が少ない。排気ガスがきれい。
・ 短所:高い効率のものとするためには、規模を大きくする必要がある。復水器をはじめとする付帯設備が大掛かりになる。変動負荷、部分負荷運転に適していない。重量あたりの出力が小さい。回転方向を変えることが出来ない。
ジェットエンジンは航空機用及び宇宙機用として開発・使用されている。 空気と燃料を爆発的かつ連続的に燃焼させ、その燃焼ガスをジェット噴射して推力・動力に使用する。
大量の燃料を消費して高い出力を得て機体を超音速で飛行させることが可能。現在、民間機・軍用機を含めて非常に多くの航空機がジェットエンジンを搭載しているが、騒音が非常に大きく、空に大量の排気ガスを撒き散らすなどの環境上の問題がある。[の9]
・ 開発の歴史 1930年代にイギリスやナチス・ドイツで開発が始まった。第二次世界大戦中にジェット推進のミサイルや戦闘機が実用化された。戦後、アメリカやソ連で徹底的に研究され、爆発的に普及した。現在では旅客機・輸送機といった民間機や戦闘機・爆撃機といった軍用機、それにヘリコプターのほとんどが広義のジェットエンジンを使用している。
・ 原理 ジェット噴射を行うためには爆発的な圧力が必要となる。そのため、高圧の空気と燃料を混合して燃焼する。
エンジンに取り込まれた空気は、圧縮機(コンプレッサー)によって大気圧比の約30倍まで圧縮される。 圧縮された空気と燃料は燃焼されて高温・高圧の燃焼ガスとなる。燃焼ガスはエンジンから排出される前にタービンを回転させる。タービンの回転は圧縮機へ伝わり、空気を圧縮する動力になる。燃焼ガスはタービンを経てエンジンから排出され、推力または動力となる。[の10]
吸気 |
→圧縮 |
→燃焼 |
→膨張 |
→排気 |
空気流入口 |
→圧縮機 |
→燃焼室 |
→タービン |
→排気口(排気管) |
・ 圧縮機 現在一般的な軸流式圧縮機(コンプレッサー)は、回転する円盤の周囲に細長い羽(コンプレッサーブレード)の付いた風車のようなもので、これが何段も連なっている。空気が回転する圧縮機を通過すると空気が押し縮められて圧縮される。
・ タービン タービンは、高温・高圧の燃焼ガスを吹きつけられて回転する風車であり、その形状は圧縮機とよく似ている。タービンの役目は圧縮機を回転させることであり、タービンと圧縮機は直結されている。このような仕組みのことをターボ(タービンブーストの略)と呼ぶ。タービンはジェットエンジンの中でも最も過酷な環境に晒され、消耗が一番激しい部分。
ターボジェットエンジン ターボファンエンジン タ−ボプロップエンジン
シリンダー内のガスを外部から加熱・冷却して仕事を得る外燃機関。スコットランドの ロバート・スターリングが1816年に発明した。熱交換をすることによってカルノーサイクルと同じ理論効率となる。スターリングエンジンは現実に存在しうる熱機関の中で最も高い効率で熱エネルギーを運動エネルギーに変換する事ができる。また、同様に運動エネルギーを熱エネルギーに変換する事もできる。1970年代に自動車の排ガス規制が強化された時やそれ以降も自動車用エンジンとして開発されたが、実用化はされなかった。近年
日本においても、電力会社やベンチャー企業によって、その研究・開発が進められているが、実用化には至っていない。[の13]
[の2](※図 ヘロンの蒸気機関)
[の3](※図 ニューコメンの蒸気機関)
[の4](※図 ワットの蒸気機関)
[の5](※内燃機関の例 4-Stroke-Engine.gif、4サイクルエンジン.gif)
[の6](※図 ディーゼルエンジン.doc)
[の7](※図 タービン.doc)
[の8](※図 ジェットエンジン)
[の9](※図 航空エンジンの分類 .gif タービン・エンジンの4種.gif)
[の10](※図 エンジン内部の流れ.gif)
[の11]/ジェットエンジン/ジェットエンジンの分類.doc
[の12](※図 スターリングエンジン.doc)
[の13]スターリングエンジンの特徴.doc