【タンデム型質量分析装置の概略】
Collisional Reactions of Biomolecules with Electrospray Ionization
我々は、孤立状態にある蛋白質などの生体分子集合体の立体構造と反応過程について研究することを目的として、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)法を用いた二重質量分析・衝突反応装置を手作りで製作した。実験装置の概略を下図に示す。この装置はESIイオン源、四重極質量分析計室、衝突反応セル室、飛行時間型質量分析計室から構成され、それぞれ独立に差動排気されている。
In order to investigate structures and reactions of biomolecular ions in the gas phase, we build up a tandem mass spectrometer with electrospray ionization. A figure shows a schematic diagram of the apparatus consisting of an electrospray ionization (ESI) source and a tandem mass spectrometer. Biomolecular ions produced by ESI are admitted into the vacuum chamber through stainless capillary. The mass-selected ions emerging from a quadrupole mass spectrometer are admitted into a collision cell with ion trap. The parent and product ions are mass-analyzed by a time-of-flight mass spectrometer equipped with reflectron.
タンデム型質量分析装置の写真
1. ESI法による生体分子イオンの生成
ヘム蛋白質等の生体分子を試料として含む溶液を、4-10kVの高電圧をかけたキャピラリーから噴霧させ、荷電粒子を含んだ液滴を生成させる。乾燥窒素ガスをフローさせて、荷電液滴から溶媒を蒸発させ、大気中で孤立分子イオンを生成させ、真空中へ導入する。
2.生体分子イオンの衝突反応の観測
四重極質量分析計で特定の電荷数の生体分子イオンを質量選別する。特に、ESI法を用いて蛋白質や質量1000amu以上のペプチドをイオン化した場合に、ひとつの分子に複数個のH+が付着した多電荷イオンが生成する。これらの場合には四重極質量分析計を用いて特定の電荷数のイオンを選別する。このようにして特定の電荷数の選別された生体分子イオンを、イオントラップを用いた衝突反応セルに導く。これを気体分子と衝突させる。反応によって生成したイオン種をリフレクトロンを用いた飛行時間型質量分析計で質量分析し、検出する。
以上のような実験的研究によって、生体分子イオンの衝突反応の過程を検討する。現在のところ、真空装置内部にあるイオン電極類はほぼ完成し、ESIイオン源によって生成した生体分子イオンを四重極質量分析計および飛行時間型質量分析計によって質量分析し、検出することができるようになった。
謝辞
今回新たに上記の実験装置を製作するにあたって、
物心の両面から下記の諸先生方に多大な御支援を賜りました。
この場をお借りしまして、深く感謝を申し上げます。
豊田工業大学
近藤保 教授
寺嵜亨 助教授
市橋正彦 博士
安松久登 博士
河野淳也 博士
神戸大学
富宅喜代一 教授
横浜市立大学
尾崎正孝 教授
三枝洋之 教授
慶應義塾大学
中嶋敦 教授
首都大学東京
阿知波洋次 教授
鈴木信三 博士 (現 京都産業大学 助教授)
【産業界への応用の可能性】
【成果の名称】
生体分子ナノ集合体に関する二重質量分析装置の開発
Development of tandem mass spectrometer to study nano aggregates of biomolecules
【技術の概要】
リポソーム、プロテアソーム等のナノメートル程度の大きさの生体分子集合体を研究する。そこで、気相中における生体分子の集合体に関する質量分析法や衝突反応の手法を組み合わせた質量分析装置を開発する。そして、溶質である生体分子と、溶媒である水分子との協同作業によって引き起こされる組織的な相互作用を、原子・分子1個1個のレベルから直接観測する。その結果、生体分子集合体の3次元的な構造と機能を司るところの、分子内相互作用や水分子との相互作用と反応との関わりについて詳細に理解し、生体分子集合体の「かたち」と「はたらき」を精密に予測する。
【マッチングを想定する業界】
質量分析装置の開発・製造を行う業界。特に、質量分析法による生体分子の構造予測に興味のある企業。
【用途利用分野】
エレクトロスプレーイオン化法による生体分子の質量分析。イオントラップを用いた生体分子イオンの孤立状態での反応の追跡。数万ダルトンまでの質量測定範囲を持つ四重極質量分析計の開発など。
【事業化および新規産業形成の可能性】
本研究自身は学術的な色彩の濃い基礎研究であるので、現在の段階では数年以内に事業化することは難しいと思われる。しかしながら、本研究で得られた質量分析技術によって、5〜10年程度の期間で新規な測定原理を用いた質量分析装置を開発・製作する可能性がある。
【従来技術に対する新規性・優位性】
過去10数年間に開発されたエレクトロスプレーイオン化法によって、蛋白質などの生体分子を質量分析することが可能となった。本研究ではそれらによって揮発された技術をさらにすすめて、真空中で孤立状態にある生体分子の構造に関する情報を得ることを目的としている。
【実用化に向けた課題】
真空中で孤立状態にある生体分子イオンの内部エネルギーを制御すること。生体分子どうしの集合体、および生体分子と水和分子との集合体を真空中で孤立状態に生成する方法を確立すること。
【研究の見どころ】
エレクトロスプレーイオン化法によるシトクロムc、ヘモグロビン等の蛋白質の多電荷イオンの生成方法。四重極質量分析計および飛行時間型質量分析計による生体分子の質量分析。イオントラップを用いた衝突反応セルにおけるシトクロムc、ヘモグロビン等の生体分子と、ピリジン等の標的分子との間のプロトン移動反応。
【現在の研究概要】
研究成果については、ただいま掲載準備中です。もうしばらくお待ち下さい。
【これまでの研究概要】
クラスタ−の反応について動力学的な研究を行なってきた。その結果、気相反応とも凝縮相の反応とも異なる、クラスタ−に特徴的な反応が進行することを明らかにした。さらに、その反応の機構がクラスタ−の特異的な幾何学的構造や電子構造、あるいはクラスタ−内部の振動運動などと密接に関連していることを解明し、クラスタ−の反応に関する基本的な描像を明らかにした。
慶應義塾大学理工学部茅研究室時代
1.Hg 錯体の分光学的研究
真空中に Hg 原子と CH4 などの分子とのファンデルワ−ルス錯体を生成し、レ−ザ−による分光学的研究を行なった。その結果、錯体内部の変角振動と錯体全体の回転運動が Hg 原子の 3P1状態から 3P0 状態への緩和過程を誘起する事を明らかにした。一方、Hg(3P0) 原子の錯体の励起スペクトルを測定して、実際に緩和過程が進行する経路である 3P0状態のポテンシャル曲面を決定した。以上の研究から Hg 光増感反応の初期過程として重要な Hg 原子の 3P1 状態から 3P0状態への衝突緩和の機構を解明した。
2.2成分金属クラスタ−の生成と表面反応
2種類の金属元素の組合せによる複合効果によってクラスタ−の反応性に対して大きな影響を与えることが予想される。この点に着目し、2成分金属クラスタ−の反応性を研究した。まずレ−ザ−蒸発によって任意の成分比率の2成分金属クラスタ−を容易に生成する方法を独自に開発し、生成した2成分クラスタ−と H2 との反応について系統的に調べた。
H2 が吸着しないといわれている Al とH2 をよく解離吸着させる Nb、H2 をある程度解離吸着させる Co との合金クラスタ−について研究した。その結果、Al 原子を Nb クラスタ−に付加すると、吸着サイトを Al 原子が選択的に塞ぐので吸着活性を弱めること、Co クラスタ−に Al 原子を付加すると、逆に Al 原子からの電荷移動によって Co 原子を活性化することが分かった。
また、吸着活性の高い V とそれほど高くはない Co とからなる2成分クラスタ−、ConVm について検討した。Co13 が高い吸着活性を示すにもかかわらず、V 原子を1個含む Co12V では特異的に活性が小さくなることが分かった。これは活性点となる V 原子が内部に位置するため H2と接触できず、しかも、その周囲をとりまく Co 原子と V 原子の d 軌道どうしの相互作用によって、Co 原子が H2 に対する吸着性を不活性化させるためである。この結果から、Co12V の構造は幾何学的にも電子状態的にも安定な V 原子を中心とした正 20 面体であると思われる。
以上の研究によって、異種金属元素の導入によって金属クラスタ−の幾何学的構造や電子構造が変わり、H2 に対する反応速度が大きく変化することが分かった。
上図で●はV原子、◯はCo原子をそれぞれ表す。
東京大学理学部近藤研究室時代
3.サイズを選別したクラスタ−イオンの衝突反応
クラスタ−反応の素過程の特性を解明するため、クラスタ−と原子、分子との衝突過程について研究した。クラスタ−イオンのサイズを選別し、そのクラスタ−イオンの衝突エネルギ−を制御しながら、他の原子、分子を衝突させ絶対反応断面積を測定した。この装置はクラスタ−イオン発生室、質量分析室、衝突室、生成イオン質量分析室から構成されている。超音速自由噴流法、加熱蒸発法などによってクラスタ−を生成し、電子衝撃によってイオン化した。四重極質量分析計によって特定のサイズを質量選別し、8極子イオンガイドへ導いた。衝突セル中で標的原子と衝突させ、反応生成物を電場磁場型質量分析計で検出した。
最も単純な衝突系として、ファンデルワ−ルス力によって緩く凝集したアルゴンクラスタ−イオン、Arn+、と He、Ne、36Ar、Kr などの希ガス原子との衝突反応を研究した。その結果、I. Arn+ から Ar 原子が蒸発する過程、II. Arn+ 標的原子へ電荷が移動する過程、III. Arn+ と標的原子とが融合する過程、という3つの反応過程が観測された。全反応断面積は Arn+ の幾何学的な大きさと同程度になった。これらの反応は衝突による Arn+ の内部運動の励起によって進行する。計算機実験によって衝突過程を追跡し、Arn+ と標的原子とが接触した場合のみならず近傍をすれ違った場合でも、衝突エネルギ−がクラスタ−に移動し蒸発反応が起こること、融合反応は正面衝突した場合にのみ起こることを明らかにした。
Arn+ との衝突過程の実験ではあまり顕著に現れなかったが、衝突によってクラスタ−が変形するような振動がクラスタ−の反応過程では重要な役割を果たしていることが理論的考察で明らかになった。このような特徴が最も顕著に現れる系としてナトリウムクラスタ−イオン、Nan+ と希ガス原子との衝突過程を取り上げ研究した。電子的に閉殻構造である Na9+ では Na 原子の解離エネルギ−と Na2 の解離エネルギ−がほぼ同じであり、1 eV 以下の衝突エネルギ−では Na の解離断面積と Na2の解離断面積の比は約1対3であった。ところが、衝突エネルギ−の増加にともなって Na の解離が抑制され、Na2 の解離が促進された。この反応の機構を電子軌道相関図を用いて明らかにした。すなわち、クラスタ−の変形によって電子的な閉殻構造が弱められ Na の解離反応が抑制されると結論した。また、Na7+ などの電子的に開殻な奇数サイズのクラスタ−イオンでは Na2 の解離のみが観測され、Na8+ など偶数サイズのクラスタ−イオンではNaの解離のみが観測された。これらの実験事実も電子軌道相関図によって説明した。
4.溶媒和クラスタ−イオンの赤外光解離
アンモニアクラスタ−イオン、NH4(NH3)n、の赤外光解離スペクトルを測定し、クラスタ−の構造と解離ダイナミクスを調べた。n≦5では光解離が観測されなかった。NH4+(NH3)n では4つの NH3 溶媒分子が第1溶媒和層を形成している。この結果は、第1層にある NH3 がこの領域に吸収帯を持たないことを示している。n≧6のクラスタ−イオンでは、光吸収によって解離が起こり、解離スペクトルは、1065-1085cm-1付近に極大を持つ。これは第2溶媒和層にある NH3 分子のν2振動(傘振動)に起因すると考えられる。この反応断面積はクラスタ−サイズの増加ともに増大した。また、この極大値はクラスタ−サイズが大きくなるにつれて低振動数側に移動し、液体 NH3 に対する振動数(1058cm-1)に漸近した。非経験的な理論計算によって、第2層の NH3溶媒分子に対する NH4+ の電子的相互作用が、クラスタ−サイズの増加とともに小さくなるためであることが分かった。
産業技術融合領域研究所時代
5. サイズを選別したアルミニウムクラスタ−イオンの衝突反応
アルミニウムクラスタ−イオン, Aln+, と原子、分子との衝突過程について研究した。クラスタ−イオンのサイズを選別し、そのクラスタ−イオンの衝突エネルギ−を制御しながら、他の原子、分子を衝突させ絶対反応断面積を測定した。この装置はクラスタ−イオン発生室、質量分析室、衝突室、生成イオン質量分析室から構成されている。高速イオンスパッタ法によってAln+を生成した。これを8極子イオンガイドへ導き、He原子が充満した冷却セルによってその内部温度を冷却した。四重極質量分析計によって特定のサイズを質量選別し、8極子イオンガイドへ導いた。衝突セル中で標的であるAr原子と衝突させ、反応生成物を4重極質量分析計で質量分析し、検出した。Al7+ は電子的に閉殻構造であることが知られている。 これよりひとつサイズの大きいAl8+の衝突解離反応では、 Al 原子の解離エネルギ−と Al+ の解離エネルギ−がほぼ同じであった。しかし、5 eV 以下の衝突エネルギ−では Al の解離断面積が Al+ の解離断面積よりもずっと大きかった。ところが、衝突エネルギ−の増加にともなって Al の解離が抑制され、Al+ の解離が促進された。この反応の機構を電子軌道相関図を用いて明らかにした。すなわち、Nan+ の場合と同様に、クラスタ−の変形によって電子的な閉殻構造が弱められ Al の解離反応が抑制されると結論した。
以上述べたように、クラスタ−の特異的な幾何学的構造・電子構造によって特徴的な反応が進行することが分かった。さらに、クラスタ−反応の素過程において、クラスタ−の振動励起による幾何構造の変形が電子構造の変化と密接に関連し、クラスタ−特有の反応を誘発することを明らかにした。
クラスターの衝突反応
神戸大学大学院自然科学研究科時代
1. アンモニウムラジカルのクラスター内での溶媒和過程
アンモニウムラジカル(NH4)は典型的な超原子価 Rydberg ラジカルとして知られ、溶液中での存在の有無は古くから議論されているが、まだ結論に達していない。本研究ではアンモニアクラスターの光解離で生成した溶媒和 NH4 ラジカルの電子スペクトルを光解離分光法により測定し、電子構造のサイズ依存性とラジカルのクラスター内での溶存状態を検討した。
観測された電子スペクトルは 3p-3s 遷移と帰属した。NH4(NH3)n の 3p-3s 遷移が、n≦4で大きく低エネルギーシフトするのは、基底状態よりも励起状態の方がよりイオン性が強く、安定化が大きいと考えられる。この結果は、n≦4でのイオン化ポテンシャルの急激な減少と一致している。一方、n≧4のスペクトルの高エネルギーシフトの原因として、基底状態と励起状態の構造の差異が、n≧4で顕著になることによると考えられる。同様の傾向は等電子構造をもつアルカリ金属原子-アンモニア系でも見出されている。これらの結果より、アンモニウムラジカルはサイズの増大に伴ってクラスター内で自発的にイオン化することが明らかになった。
S. Nonose, T. Taguchi, F. Chen, S. Iwata and K. Fuke, J. Phys. Chem. A,106 5242-5248 (2002).
2. エレクトロスプレーイオン化法による生体分子イオンの光誘起反応
蛋白質や核酸等の生体分子は「水」の中で多様な機能を発現して生命現象を営んでいる。生体分子も水も、それらがばらばらに孤立して存在する場合には、無生物と同様な単なる「物質」にすぎない。これが集合して互いに強い相関を持って協同的・組織的に作用するときに、非加算的・複合的な現象として生命活動が発現される。生体分子と周囲を取り囲んでいる水分子はバルク水とは異なる物性を示す。そこでは、水和水が生体分子表面の極性原子団と水素結合する事によって、籠状の塊を形成する。この水和水の籠状の塊が、生体分子の運動を制御していることが報告されている。このような生体分子と水和水との相互作用が、生体分子の3次元的な構造の形成と機能の発現に関して重要な役割を果たしている。特に、電子移動反応・プロトン移動反応などの溶液反応は、クロロフィル・チトクロムcなどの生体分子における代謝の反応素過程として中心的な課題となっている。しかし、既存の研究は主として相互作用の複雑な凝縮相で行われているため、これらの素過程の反応ダイナミクスを、原子・分子1個1個のレベルから十分に理解されているとはいえない。
現在までのところ、液相中、生体中での蛋白質など生体高分子の物理的・化学的性質に関する研究が広範に行われている。しかし、液相中の蛋白質では周囲にある無数の水分子が溶媒和しており、それらの水分子との相互作用のために、蛋白質の反応ダイナミクスを詳細に調べることを困難にしている。その理由として、以下の2つのことが考えられる。
(1)蛋白質の反応ダイナミクスにおいて統計的揺らぎが重要だが、液相中では周囲に無数の水分子があるために揺らぎを直接観測できない。
(2)液相中では周囲にある無数の水分子との相互作用のために、反応経路に沿った大域的なポテンシャルエネルギー曲面に関する知見が得られない。
生体分子は本来、生体中すなわち水溶液中で機能するものである。よって、水溶液中から真空中へ取り出して孤立状態にある生体分子は、本来の環境から相当にかけ離れたものである。しかしながら、生体分子の3次元的な構造と機能を司るところの、分子内相互作用や水分子との相互作用と反応との関わりについて詳細に理解するためには、生体分子を真空中の孤立状態で研究することが重要であると思われる。我々がいままで行ってきた真空中の孤立状態におけるクラスターの反応ダイナミクスに関する研究によって、クラスターの衝突反応の過程に関する基本的な描像を確立し、小数多体系としてのクラスターの性質を詳細に理解することができた1)。一方、蛋白質などの溶液中にある生体高分子もまた、クラスターと同様な小数多体系として捉えられる2)。よって、クラスターに関する研究と同様の実験手法を用いて、溶液中にある生体高分子の反応ダイナミクスに関する研究を進めることができると期待される。しかし、そのためには、液相中にある生体高分子を非破壊的に真空中へ導入し孤立状態におくことが必要である。
最近の10年間で急速に確立されたエレクトロスプレー法を用いることによって、溶液中にある金属イオン、有機分子・生体分子などの不揮発性物質をイオンとして非破壊的に真空中へ取り出すことが可能となった3)。特に蛋白質の場合、多数のプロトンが付加した多電荷イオンとなり、数個から数十個の水分子が溶媒和した混合クラスターとして生成する。エレクトロスプレーイオン化法に質量分析装置を組み合わせることによって、クラスター中のプロトン付加による荷電数、溶媒和している水分子の個数を制御することが可能である。これらのイオンが溶媒和されたクラスターは溶液から反応中心だけを切り出したものに相当するため、電子移動反応・プロトン移動反応などのダイナミクスの決定因子である溶質ー溶媒間の動的な多体効果を直接観測することができる。近年、シトクロムc、アポミオグロビン等の蛋白質を電気スプレー法を用いて真空中へ導入し、それらのイオン移動度を測定した。その結果、孤立状態にある蛋白質の形状に関する知見が得られた4)。
本研究ではエレクトロスプレーイオン化法を用いて、金属イオン、有機分子・生体分子イオンなどの溶液中にある物質を真空中へ導入し、それらのイオンに溶媒分子が数個から数十個配位したクラスターに関するレーザーを用いた分光学的研究を行った5-7)。
文献
1) S. Nonose, H. Tanaka, T. Mizuno, N. J. Kim, K. Someda and T. Kondow, J. Chem. Phys., 105 9167 (1996).
2) A. Fermandez, K. S. Kostov and R. S. Berry, J. Chem. Phys., 112, 5223 (2000).
3) "Electrospray Ionization Mass Spectrometry", ed. R. B. Cole, Wiley (1997).
4) M.F. Jarrold, Acc. Chem. Res., 32, 360 (1999).
5) "Photo-Induced Reactions of Hemin+(DMSO)n Clusters, (n = 0 - 3) with Electrospray Ionization" S. Nonose, H. Tanaka, N. Okai, T. Shibakusa and K. Fuke, Europ. Phys. J. D, 20 619 (2002).
6)"Photo-Induced Reactions of Biomolecular Ions Produced with Electrospray Ionization", S. Nonose, S. Iwaoka, H. Tanaka, N. Okai, T. Shibakusa, and K. Fuke, Europ. Phys. J. D, , 24 335 (2003).
7) "Photoionization and Photodissociation Processes of Multiply-Charged Cytochrome c Ions in the Gas Phase" S. Nonose, H. Tanaka, and K. Fuke, Memoirs of Graduate School of Science and Technology, Kobe University, 22-A, 21-31 (2004).